醤油の知識
101|ブレンド
2月より、「生成り、」濃口のブレンドバージョンを発売しました。職人醤油さんでも初年度の「2010」から取り扱いいただき「2013」まで4年度分、その年毎に1つの商品として発売してきました。
その販売スタイルは「生成り、」シリーズの大きな特徴で、その事を面白いと思って着目して下さった方もいらっしゃると思います。
ぶっつけ本番で始まった醤油造り、どんな仕上がりになるか自分もまったく分からない。「どんな味の醤油を造りたいんですか?」という質問を今までに相当な回数聞かれましたが、正直品質面での目標というのは、ほぼありませんでした。
初めての設備で初めて自分でやる醤油造り。どうしたらどうなる。というイメージがないし、仮にあってもそれをコントロールする技術も無いので、成るがままというのが実際のところでした。
ただ、造りに関しての形には一貫した想いがありました。
できるだけミニマルな造りで、最初から最後まで自分が主体で作業し、醸造工程以降での品質の加工・調整はしない。という事でした。
元々うちで長年製造してきた「混合」の醤油というのは、火入れの段階で糖類や甘味料・旨味調味料などを混合し、その種類や量によってうちの味を生み出し、お客様に支持されてきました。「混合」の醤油は醸造工程以降の調合というのが品質のキモな訳です。
自分はそれを否定する気はありませんし、今でもうちの主力商品です。ただ自分が長年やりたいと思ってきた醤油造りは、発酵・醸造のプロセスがキモな訳です。どちらも、美味しい醤油を目指して造っているのですが、重要視している工程が違うという事です。
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話が長くなりましたが、年度別に売るというのは僕の中では、そのキモの部分の価値を最大限に活かした販売方法でした。
要は、発酵・醸造という過程で造られた物にはまったく同じ品質というのはありません。これは混合の醤油も同じですが、その振れ幅というのは前者の方が大きいと思います。
味が変わるというのは悪く言えば品質のブレで、一般的にはいい意味ではありません。ですが、そういう事に囚われず自分のやりたいように醤油造りを出来る環境にしたい。という想いがあり、変わる事に(品質が)価値が生まれる仕組みというので、年度別で販売していく事にしました。
そして、実際に5年間そういうスタイルで販売してきて、キャッチーな売り方というのもあって注目してもらえましたし、年度毎に違うというのも認識してもらえました。ただ、一つの年度の醤油を搾り始めてから搾り終わるまでに2年ほどかかり、最後の方は諸味期間として5年近く経つようになりました。
醤油醸造には時間が必要不可欠ですが、あまりに長くなりすぎるとマイナスの要素が多くなるように感じています。
一つは、以前再仕込みの事を書いたときにも触れましたが、グルタミン酸がピログルタミン酸に変化し旨味が低下する事。それと、老ね香や酸化臭が強くなり香りが重くなる事です。
近年、自分の中でこの2点が気になっていたのですが、年度毎のリリースという今までの流れもあり、気になりつつもそのまま続けていました。
そのブランドらしさやストーリーというのも、販売する上でとても大事な要素だと思いますが一番は品質です。どれだけ原料のスペックが高くて、こだわった要素が多くても、美味しくないとお客さんは買ってくれません。そして何より、造っている自分自身が自信を持ってお勧めできる品質じゃないといけません。
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自分は今ベストな醤油を出せているのか?というのがこの1年くらいはずっと引っかかっていました。 年度別で売っているという大きな特徴が、ベストな品質を味わってもらうという一番重要な事の邪魔をしているように感じ、年度別は辞める事にしました。
色々と考えて常にベストな醤油を出荷するには、圧搾毎にその時の状態で複数年度の諸味を合わせて搾るのが最良の方法だという結論に至りました。昔から、1年は香り、2年は味、3年は色、という言葉があるように、昔はブレンドする事の方がスタンダードだったとも聞きます。
ただ、ブレンドもやってみたら奥が深く、コレだ!という領域にはまだ達していませんが、以前より良くなった手応えはあるので、スッキリしています。数年先には言ってる事もやってる事も変わっているかもしれませんが、美味しい醤油を目指して、常に進化していきたいと思います。
1984年生まれの醤油職人。
高校生の時に自社での醤油醸造の復活を志して東京農業大学 醸造科学科に入学。入学後、「学校に通っているだけでは自分の求めるものは得られない。」ということに気づき、伝統的製法による醤油造りを続けられている醤油蔵を探し、卒業までに7つの醤油蔵で短期間の研修を受け入れて頂く。卒業後、岡本醤油醸造場にて一年間の研修。その後、JFCS(ジャパン・フードコーディネーター・スクール)で一年間学び2009年6月より、実家であるミツル醤油へ入社。2009年11月 夢である醤油造りの復活と、地元・糸島を全国に発信したい。という思いをリンクさせ具現化する、社内別ブランド「itosima terroir」(イトシマ テロワール)をスタート。
ミツル醤油醸造元
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醤油のつくり方
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1
原料処理
カチカチの材料をほくほくにしたり、溶かすことで、菌が材料を醸し、美味しさに変化しやすいようにします。
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2
麹づくり
醤油づくりで一番重要視されている工程です。種麹を原材料に混ぜて、麹菌を繁殖させることで酵素を生み出します。
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3
塩水
麹に塩水を加えて諸味をつくります。塩分濃度を高めることで雑菌から守り長い発酵熟成の時を迎えます。
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4
諸味
ゆっくりと乳酸菌や酵母菌が大豆や小麦を醸します。どろどろの味噌のような状態で、半年~三年の時を過ごします。
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5
圧搾・火入れ
諸味を布に入れて、圧力をかけて圧搾し、火入れとろ過をします。殺菌と香りを引き立てる火入れも技術が必要です。
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6
完成
ビン詰めされてラベルを貼ってようやく完成。長いものだと原料処理から二~三年かけて醤油になります。
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