醤油の知識

040|諸味の管理「酵素分解」

仕込み後、まず諸味で起こるのは麹菌が生産した「酵素」による分解です。見学に来られた方などから「仕込みの適した時期などあるのですか?」という質問を良くいただきます。

一般的に諸味の温度管理などをせずに、自然の気温任せの場合は秋~春と言われています。ただ、設備の整っている工場では夏場でも低温で仕込むことで、冬場に似た環境を再現して安定した醤油を作ることができます。

なぜ気温が低い時期が良いのかというと、温度が高いと仕込み初期から乳酸菌が増殖して諸味のpHが下がり(乳酸を生成するため)、プロテアーゼ(たんぱく質分解酵素)の活性が弱まるのです。
醤油諸味ではアルカリ性プロテアーゼと中性プロテアーゼが、たんぱく分解のメイン酵素なので、十分な作用を受けるために仕込み初期に高いpHを維持する必要があります。

昔、夏仕込みの醤油の品質が悪いとされたのは、これが原因でアミノ酸量が低かったようです。

まとめると
「諸味pHを高く保ちたい」なので →「乳酸菌の生育を抑える」なので→「低い温度で仕込む」ということです。

と、だらだら話が長くなりましたが、荒櫂後の諸味管理は酵素の分解を助長するために10日に1回くらいで撹拌しています。
仕込み後はしょっぱいだけの諸味も、徐々に甘さが出て甘じょっぱい味になってきました。

<撹拌前>


<撹拌後>
表面は空気に触れているので、少しくすんだ色になっていますが中は明るい艶のある質感です。


この大豆がどう変化していくか、定期的に写真を撮ろうと思います。

城 慶典 (ミツル醤油醸造元)

1984年生まれの醤油職人。
高校生の時に自社での醤油醸造の復活を志して東京農業大学 醸造科学科に入学。入学後、「学校に通っているだけでは自分の求めるものは得られない。」ということに気づき、伝統的製法による醤油造りを続けられている醤油蔵を探し、卒業までに7つの醤油蔵で短期間の研修を受け入れて頂く。卒業後、岡本醤油醸造場にて一年間の研修。その後、JFCS(ジャパン・フードコーディネーター・スクール)で一年間学び2009年6月より、実家であるミツル醤油へ入社。2009年11月 夢である醤油造りの復活と、地元・糸島を全国に発信したい。という思いをリンクさせ具現化する、社内別ブランド「itosima terroir」(イトシマ テロワール)をスタート。

ミツル醤油醸造元