醤油の知識

083|梅雨の仕事

今年も諸味を櫂入れ(混ぜる)する時期が来ました。
昨年は発酵が始まるのが早く4月末位から湧いていましたが、
今年は5月中旬からと例年よりやや遅めのスタートですが順調に進んでいます。 



夏場の醤油造りの作業と言えば、
やはり櫂入れがメインなのですが、
他に地味な仕事も少しあります。

この時期、櫂入れするのは初めて夏を迎える諸味です。
ここでも何度か書いていますが2年目、3年目を迎える諸味(ビニールを被せた桶)は
春~夏の間に2・3回混ぜる程度です。



そのうちの1回のタイミングは梅雨の時期です。
下の諸味は2012年の秋に仕込んだ桶で、2度目の夏を迎えたところです。

ビニールで覆う事により産膜酵母の増殖を抑えることができますが、
完全に阻止できる訳ではありません。

この桶の側面が白っぽくなっているのは産膜酵母です。
産膜酵母はたくさんの種類があり、
それによって見た目の質感や色・香りがぜんぜん違います。
(写真のものは、ネットリベタベタした質感で、いやな臭いはほぼありませんでした。)



これから気温が高くなってどんどん増殖する前に、
それぞれの桶をチェックしてこれをヘラでしっかり削り取ります。
スッキリ綺麗に。
(取り除いた産膜酵母は捨てます。)



側面を美しく清潔にして諸味を攪拌し、再びビニールを被せて熟成させます。
こうする事で異臭のない、良い熟成香の醤油に導きます。(イメージですが)



また梅雨時には、桶から醤油が染み出ている箇所にカビが生えてきます。



うちの桶は柿渋を塗っているので、
固く絞ったタオルでサッと拭き取れば綺麗に取れます。
そのままの木地だと繊維に菌が入り込んで、綺麗に取れないのです。
と言っても、中の諸味と接している訳ではいないので
直接品質には関係ないとは思いますが‥ 蔵の空気がいいです。
カビは数日するとまた復活してきますので、定期的に拭きます。

この時期に限らずですが、
4年間醤油造りを経験してみて「環境を整える」という事は、
微生物が作り出す醤油では、とっても大事なことだと感じています。
細かい事にも手を抜かず、もっともっといい醤油を作れるように勉強していきたいです。

城 慶典 (ミツル醤油醸造元)

1984年生まれの醤油職人。
高校生の時に自社での醤油醸造の復活を志して東京農業大学 醸造科学科に入学。入学後、「学校に通っているだけでは自分の求めるものは得られない。」ということに気づき、伝統的製法による醤油造りを続けられている醤油蔵を探し、卒業までに7つの醤油蔵で短期間の研修を受け入れて頂く。卒業後、岡本醤油醸造場にて一年間の研修。その後、JFCS(ジャパン・フードコーディネーター・スクール)で一年間学び2009年6月より、実家であるミツル醤油へ入社。2009年11月 夢である醤油造りの復活と、地元・糸島を全国に発信したい。という思いをリンクさせ具現化する、社内別ブランド「itosima terroir」(イトシマ テロワール)をスタート。

ミツル醤油醸造元