醤油の知識

ミツル醤油の初搾り

過去のwebサイトに掲載していた「ミツル醤油の初搾り」。今のサイトに移行が漏れていました…。気づけば12年前。今、読み返しても懐かし思い出です。ここに2013年当時の記事をそのまま改めて公開します。

2010年6月から連載している「醤油の仕込み復活 挑戦の奮闘記」。 若き醤油のつくり手が、家業の醤油仕込みの復活の軌跡を綴っているのですが、 2013年2月2日に、いよいよ初搾りの時を迎えました。 舞台は福岡県糸島郡。ここはミツル醤油の仕込蔵。

2011年と2012年の2度の夏を過ごした醤油の諸味。 城さんの念入りな管理が功を奏して、よい香りを醸していました。 蔵に入った時の第一印象は「良い香り」。 当たり前のようですが、この当たり前をつくるのがとっても難しいのです。

桶を修繕したり、麹室(こうじむろ)のを建設するところからのスタート。 全てが試行錯誤の連続で、最小コストと必要最低限の設備でという 城さんのスタンスは一貫しています。 今回の搾りも、造り酒屋さんが使うような設備を応用することに。

今回は強力な助っ人が登場。 広島県の岡本醤油のご主人と息子さん二人が駆けつけてくれました。 過去に城さんが一年間修行した縁があって、 師弟関係でもあり、家族のような関係にさえ見えます。 現場に到着するないなや作戦会議。 明日に備え少し現場をみるはずが、永遠と話し合いは続きます。

岡本さんたちにとっても初めての設備。 ただ、岡本さんは昔の設備から近代までの変遷を、 身をもって体験されています。すぐさま様々なポイントを指摘。 「ここにスペースをあけたほうがいい。」 「このように二人がかりで作業をしたほうがいいから、ここをこうして・・・」 「ただ、思いついた事は全て言うけど、実際にどうするかは城君が決めなさい。」 そう付け加えるのも岡本さんらしいです。

翌朝、ミツル醤油にとっては数十年ぶりの醤油の搾り。 日本全国でもここ数十年で 新たに醤油の仕込みをはじめた例はほとんどないと思います。 「何か儀式のようなこと、したほうがいいのかな?」 「あっ、準備に大慌てで、そのあたり何も考えていなかったです・・・」 「はじめてづくしだもんなぁ・・・でも、先人と醤油の神様に一礼しておかないと。」

皆で作業場に向かって一礼。
作業の手順としては、まず桶の中で熟成された諸味を搾り場に運びます。
ホースとポンプを使って諸味を送り出します。
一方が桶でホースを持ち、一方が搾り場のタンクの前に立ち、さらにポンプを操作する担当とに分かれ、「いきますよぉ~!スイッチ!」の掛け声。ポンプが始動。

諸味はドロドロした状態なので、ポンプで送れるかが第一関門。 理論上は大丈夫ですが、何しろ初めてのこと。 「最悪の場合、バケツに汲んで手作業で運べばいいさ。  たかだか50往復くらい・・・昔の人はみなそうだったんだから・・・」 そんな話をしつつ、誰もがポンプよ動けと祈っていました。

ゆっくりながら諸味が送り出されていきます。 一安心しつつ、竹の棒に何リットル送ったら液面がどの程度下がるかを記録。 来年以降の目安になるオリジナル定規をつくっていきます。 桶はそれぞれに微妙な大きさの違いがあるので、 このような記録を残すことが、後々の作業の助けになるのだそうです。

最初は500リットルを送り、黄色のタンクにためました。そこからバケツに汲み取って、搾りの作業がスタートです。
バケツに一定の量を計れるように印を付けておき、その線まで諸味を入れてから袋に移します。
反対側ではこのように受け取って袋に入れます。メッシュ状になっている布を通して、醤油が搾り出されてくるというわけです。
一枚目が完成。このように敷きます。
均等に敷き詰めていき、さらにその上に積み重ねていきます。
最初の頃はこんな体勢に。「どこが痛くなる?やっぱり腰?」と聞くと、「腰にもきますが、ももがキツイです!」と城さん。
ひたすらこの反復です。均等に力が加わるように、出来る限り均一に重ねなくてはなりません。一度ズレると後での修正が難しいのでゆっくり慎重に。

順調に作業が進む中でトラブル発生。 作業開始時に一枚の袋に入れる量を、当初の計画より少なくすることにしました。 当然、作業量は増えますが、より丁寧かつしっかり搾るためです。 (かなりの大激論が飛び交っていました。) その結果、用意していた袋が足りなくなり・・・ 急遽用意しようとしても特注のために数週間かかるとのこと。 ひとまず、できる範囲の量を搾ることに方向転換。

ちょろちょろ音をたてて醤油が滴ります。記念すべき初搾り!
お昼休み。城さんのお母様たちのお手製。「田舎料理だから・・・」と謙遜されるも、超がつくほど豪華な食卓に一同びっくり。

午後の作業の合間をみて後片付け。 ホースの中に残った諸味も丁寧に取り出して一滴も無駄にしない。 つくり手にとって当たり前の姿勢を垣間見ていました。 その後は念入りに水洗いして乾燥。 出来る限り清潔綺麗に。岡本さんのスタンス。

ひとまず人ができるのはここまで。醤油が自分たちの重さで搾られていくのを待ちます。時間をかけすぎるのも醤油の酸化につながるので避けたいところですが、急ぎ過ぎるのはもっと避けなくてはいけないところ。
一夜明けても、ちょろちょろと醤油は滴っています。今度はその上に板を乗せて、さらに木を乗せてさらに重さをかけていきます。
さらに木を重ねていきます。
圧力をかけていきます。一気に力をかけ過ぎないように、ゆっくり少しづつです。

ミツル醤油のみなさんと岡本醤油のみなさん。 無事に初搾りが終わりました。 ———- 今回、2泊3日で初搾りに密着させていただきました。 そこで見たのはとことん考えて、岡本さんと議論を交わしている城さん姿でした。 「搾る」と書くと単純な工程のように思えますが、いくつもの工程が積み重なって「搾る」作業になるわけです。その細かい工程毎に、どうするべきか?より良い状態で醤油を保つにはどうするか?を考え抜いている姿勢でした。 この後は、「火入れ」という熱を加える工程があります。早速、何度でどれくらいの時間するべきか?どのように冷却をするべきか?の議論がはじまっていました。これから何十年と続いていくであろうミツル醤油の醤油の仕込み、城さんが手がけるその第1回目の商品がまもなく登場予定です。(2013.02.19)

城慶典の醤油復活の奮闘記

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