醤油の知識

今野醸造(宮城県)

よいものづくりは、人づくりから

「大豆を育てるのも、醤油や味噌をつくるのも同じですよね。大豆も麹も生き物。単純だけどごまかしがきかないですから」と話すのは社長の今野昭夫さん。今野醸造では味噌に使う大豆を自社生産をしています。

「大豆の苗の芽が揃っていると、収量はよいものです。そのためには種まき前の下準備が大切。この下準備の大切さも醤油や味噌づくりとも同じですね」。

社長の今野昭夫さん。

周囲が反対する中での大豆づくり

はじめての大豆づくりは平成5年。農地の確保に苦労して、ようやく見つけたのは小さな区画が7カ所。あっちの土地に行って、こっちの土地に行ってと非効率な作業の連続だったそうです。

そして、現実は厳しいもので、「夏、朝から夜まで草むしりです。背中はブヨに刺されて真っ赤になってね。逃げたくてしかたなかったですよ…」と、今野さん。そんな時、近所で野菜を育ていてるおばあさんの姿が目に入ったそうです。

普段はとてもおだやかな今野昭夫さん。利き味をする時は厳しい表情に切り替わる。

「あなたのために」が商品名に。

「農作業は大変です。でも、彼女からそんな雰囲気はないんです。どうしてだろうと考えてみると、お金のために野菜をつくっていないんですよね。家族や近所に配りたくてつくっている」。

ものをつくることは、人に食べてもらう喜びから。「その時にひらめいたんです。不思議なもので、そこから同じ作業でも楽しくなりました。味噌の商品名(『仙台味噌 あなたのために』)を決めたのもこの日の夜でした」。

吟醸は、第49回(2022年)全国醤油品評会の農林水産大臣賞を受賞。

数多くの受賞歴がある「吟醸」

この「吟醸」は全国醤油品評会で6度の農林水産大臣賞を受賞しています。全国から出品される醤油の中からの最高賞。一度でも獲得するのもが難しいもので、この受賞回数は過去最多だそうです。

大豆をつくっていなければ、この醤油もなかった

そのような評価を得ている「吟醸」ですが、元々、今野醸造では醤油の生産をやめようと考えていたそうです。

ところが、大豆の自社栽培による無添加味噌「あなたのために」が評価されはじめると、顧客から「醤油も同じように手をかけたものあるんでしょ?」と聞かれたそうです。

「答えに詰まってしまったんです。答えられなかった。今まで自分がつくりたいものをつくっていなかったんです。先代から引き継いだ醤油が何種類もありましたが、利き味をしてもどれがよい醤油か分からなかったんです」。

醤油はきれいなもの

「醤油のおいしさって、素材そのものを食べられるものだと思っています。だから、雑味はだめなんです。醤油はきれいなもので、何に使ってもおいしくなきゃいけない。ふくよかな香りが横に広がって、醸造物本来の味と香りの一体感があるような、そんな醤油を目指しています」と、工場長の後藤正信さん。

自分たちがつくりたい醤油を追求したのが「吟醸」だそうです。でも、後藤さんはまだ満足しておらず、商品毎に業務日誌を作成して少しでもよいものを目指しています。「悪いときは原因の追及と改善を繰り返しますが、その試行錯誤は楽しいものですよ」と笑います。

工場長の後藤正信さん
味噌の原料になる大豆は自社栽培。
味噌づくりに使う米麹。
麹室の中は徹底的にきれい。
今野浩嗣さんと今野昭夫さん。

ものが人をつくる。人がものをつくる。

「社員が気分よく働けることが大切だと思っています。よいものをつくるためには、そのものづくりをする人がよくないといけないですから」。能力より努力が大切。そして、助け合いと協調性が大切。「一生懸命取り組んで、人間性を高める。そうすれば、よいものづくりができると思っています」。

「クレームがあればなぜ発生したのか?真摯に向き合って誠実に対応する。自分の心の持ち方次第で細かいところに気づくようになるし、そうなれば時代や環境が変わっても対応できますからね」。

仲のよさそうな様子が伝わってきます。
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