職人醤油の蔵元
南蔵商店
流行は追わない。価値あるものをつくる。
醤油は自然がつくるもので、人が関与できる余地は少しだけ。ただ、そのわずかに最大限貢献できるように向き合う。それが南蔵商店の印象です。麹づくりに全力を注ぎ、過去の天気から浸漬時間、蒸し時間までを記録。そのデータと麹を割った時の感覚とを照らし合わせて微調整。目指すは最高の麹づくり。
歩いてまわれる6軒の醤油蔵
南蔵の看板を目にしながら小道を進む。左手に連なる建物には大きな木桶が並び、右手の建物では青いエプロンをかけた女性スタッフが圧搾作業をテンポよくこなしている。町並みと醤油造りが一体化しているような日常。
愛知県武豊町は溜醤油の主産地として有名。「最盛期には50軒ほどありましたが、今では6軒ほどです・・・。」と、五代目の青木弥右衛門さん。それでも徒歩圏内に密集している6軒。長い時間を経て残っているには何かしらの理由があるはずです。
溜は黒くてどろっと・・・ではない!
「これはもう自分たちの責任だと思っています。」と、青木さんが続けます。溜醤油は色が黒くて独特の香りがあって、どろっとしている・・そんなイメージが一般的に広まっています。「ただ、本来の溜醤油はこうではないと思います。なにをもって溜なのか、その定義が非常に曖昧になっていると思います。」
溜醤油は熟成期間が長くて仕込み水が少ないのが特徴。当然、一般的な醤油に比べると収量が少なくて、高コストになります。溜一升が職人一人の日当だった時代もあり、溜醤油は高級品とされていました。
そして、より安くより効率的にという流れの中で様々な溜が出現します。「自分たちの業界がしてきたことが、自分たちの首を絞める結果になっていると思います。」黒くてどろっとしたものだけが溜ではない。そのことを知っていただきたい。青木さんはそう主張します。
全ては麹づくり。ここに尽きる。
この綺麗な色の秘密を伺うと、全ては麹造りだといいます。「3代目の時から科学的データを蓄積するようになったんです。悪い時は原因追及のために当然ですが、良い時になぜ良いのかを研究してきました。」と青木さん。
特に強調されるのは、乳酸菌をしっかり育てること。一般的な濃口醤油は酵母菌によるアルコール発酵を伴いますが、溜醤油にはそれがありません。発酵よりも分解という表現が近いのですが、よい麹とよい乳酸菌を育てることで大豆のタンパク質が効率的にうま味成分に分解されていくのです。
薬をつくっているわけじゃないからね。
海外ではアレルギー対応などで「グルテンフリー」(小麦などの穀物からつくられるタンパク質を含まない食品)が注目されています。原料に小麦を使っていない溜醤油は、その点からも海外からの問い合わせが多く、実際に多くの量が海を渡っています。
「小麦が入っていないだけで評価されるのは違うと思うんです。大前提として美味しくないといけない。私たちはそこを忘れてはいけないと思います。薬をつくっているのではないですからね!」と青木さん。
「ぼくらは変わっていないんです。小麦は昔から使っていない。それがグルテンフリーに合致しただけの話。同じように、市場に対応していこうとすると、こんなのつくれ!とか、もっと安いのをつくれ!とか、いろいろな意見があると思います。ただ、安易に商品数を増やすことはしたくないと思っています。」
口数が少なくて頑固な職人のような雰囲気がありますが、ひとたび溜醤油の話になると多弁になります。「価値あるものをつくっていると思えるから頑張れる。」麹づくりの頻繁な温度管理など、手間と時間と根気が必要な作業の繰り返しです。お客さんが美味しいと言ってくれる、そして、自分自身が自信を持てる商品でないと、とてもじゃないけどできないというわけです。味と信用が大切。一度食べたらまた食べたくなる溜醤油を目指して。
濃いだけじゃない。溜って美味しい。
価格 : 550円+税
原材料 : 大豆(国内産)、食塩