職人醤油の蔵元

石孫本店

昔ながらという表現が相応しい醤油蔵

「スタッフに20代が二人もいるんですよ!」と嬉しそうに話す石川裕子社長。醤油と味噌の蔵元として「昔ながら」という言葉がぴったりで、「よく未だにこんな造りをしているね・・・」と同業者も舌を巻くほど。ただ、石孫本店の最大の特徴は、この「造り」を残そうとする意志と蔵人のものづくりへの姿勢だと思うのです。

麹蓋(こうじぶた)による醤油造り

醤油づくりで最も重要ともいわれる麹づくり。現代では機械制御で品質の安定を目指す手法が一般的ですが、石孫本店では「麹蓋(こうじぶた)」を使っています。お盆のような形の容器を使う手法で、一度の仕込みに数百枚を使います。

大量の麹蓋を積み替えたり、中に入っている麹を手でほぐしたりと、とにかく手間がかかります。博物館に展示されているのを見た石孫本店の蔵人が「うちでは普通に使っていますよね?!」と驚いていたという笑い話もあったりして・・・

仕込みを前に準備された麹蓋。これだけの量が使われます。
麹蓋は室(むろ)とよばれる部屋に運ばれて麹を成長させます。床の穴に木炭がセットされ、天井の窓の開閉で温度を調節します。夜中でも人が見守りながら調整をするので、「麹の世話をする」なんて呼ばれていたりもします。
初めて訪問した時に驚いたのが、小麦を炒るのに「石炭」を使っていたことです。今や入手することさえ困難な石炭。当然、近くで調達することができないため北海道から取り寄せているそうです。ただ、少量での購入はできないために「一貨車単位」で取り寄せているとか。
醤油が仕込まれる桶。
桶がいっぱいになるまで人力で運ばれます。

桶まで何度も行ったり来たり

室から出された麹は高さ2メートルを越す木桶に運ばれます。30石(約5000リットル)もの巨大な桶がいっぱいになるまで、蔵人が担いで何度も何度も往復します。

そして、この桶の中で発酵と熟成の時を過ごすのですが、桶にはその蔵元独特の微生物が住み着いています。石孫本店の場合、近隣の研究機関で調べてもらうと95%が個性的だったそうで、研究員の方も蔵人もびっくりしていたとか・・・

(研) 「これが他メーカーの優秀なやつね!」
(蔵) 「あっ!いい香り!」
(研) 「そして、これがおたくのやつ。」
(蔵) 「あっ!蔵の香りだ!」

長い長い歴史の中で石孫本店独特の微生物の生態系ができていて、それが独特の美味しさにつながっています。

醤油を搾るにはとても大きな力が必要です。ただ、石孫本店の圧搾機はこれまた旧式。
諸味はこの袋に入れられて搾られます。
強力な力を加えると水分がなくなるギリギリのところまで搾ることもできるのですが、石孫本店の場合はそうもいきません。「搾りかすもこんな分厚くなってしまうんですよ。」と差し出されたものは指先にしっとり湿り気を感じるほど。

仕事の大半が雪下ろしの日も・・・

このような醤油づくりは今でこそ見る人に感動すら与えると思いますが、一昔前は卑屈にも感じていたこともあったそうです。

秋田の豪雪地帯でもある湯沢市は仕込み時期の冬には2階の窓から出入りするくらいに雪が降り積もり、1日の仕事の半分が雪下ろしになることもあるそうです。「醤油の麹を人が担いで運ぶのではなくて、機械の力で送れたらいいね。早く機械を導入したいねって、よく話していたんですよ。」

ところがある日、雑誌取材で訪れたライターさんとカメラマンさんが、真剣に話をしてくれたそうです。「これまで全国を取材でまわってきたけど、この光景は本当に貴重。絶対に残すべきだ!」と。

このままでいいんだと気づいた転機

「私たちにとっては目からうろこでした。自分たちを否定しなくていいんだ。このままでいいのだと頭の中を切り替えることができたのです。」そして、いつかは最新のものにと考えていた建物や道具の修繕をはじめたそうです。

「毎年少しづつですけど・・・今では守ることが大切な仕事の一つなんです。」

その話を伺って妙に納得した気がしました。石孫本店の道具を見ていて感じていたこと・・・大切に使われてる以上の何かがあるような気がしていたのです。あぁ、そうか、ずっと使い続けるという蔵人たちの意志が込められているのだな・・・と、そんな感じがするのです。

蔵の中を驚くほど綺麗に保てる理由

石孫本店に足を踏み入れて一番驚くのが「綺麗」なこと。もちろん、建物も道具もかなり年季が入っていますが、古い蔵にありがちなイヤな香りは一切なく、床の端まで掃除が行き届いています。最初に訪問した時から、どうしてこの状態が保てているのか不思議だったのですが、三度目の訪問でその理由が分かった気がしました。

私の仕事はこれと胸を張る石川裕子社長

石川社長は蔵人に対して、具体的な指示は出さないそうです。むしろ、「仕込みはいつからするの?」と尋ねるくらいで・・・そして、「社長!資材が少ないので発注しておいてください!」と言われて発注する。

「これが私の仕事なんです!」と、嬉しそうに語ってくれるのです。

休憩時間には蔵人がそら豆で味噌を仕込んでいたり、畑から野菜を収穫してきていたり、ストーブに鍋がかかっていて何かがつくられていたり・・・「今度は、何をつくっているの?」と、聞くのが楽しみなんです。

自分の関わりが明確になるから

生産の規模が大きくなるほど分業化していくものです。

ただ、機械がない石孫本店にとっては自分の関わりが品質に直接影響します。例えば小さな失敗があったとすると、「ほらみろ!だから・・・あそこが・・・お前が・・・」蔵人同志であれこれ話し合っているそうです。

このような積み重ねが、「自分が醤油や味噌づくりにどう関わるのが良いのか?」を考えて実感するきっかけになっているのだと思います。その一つとして仕込み場は清潔な方がいいことを実感しているから、自然とそうなっているのだと思います。

どう考えても「掃除をしっかり!」というやらされ感では保てない環境だと思うのです。蔵人同志が相談をしながら雑巾がけをしているそうです。高圧洗浄機などではなく・・・

スコップにも蔵人の名前が。いつも同じものでないと感覚が違うらしく・・・
蔵人全員で手をあわせます。
小麦の炒り機に小麦を送る時に使う箱。これも相当使われ続けています。
「34.56石(一石=約180リットル)入る桶」という表記。小数点以下まで書かれていて、全ての桶の大きさが微妙に違います。

石川社長らしいなぁ・・・と思ってしまうこと。

「仕事をすることは生活の糧だけど、喜びの心がないといけない。そうしないと寂しいでしょ?!」という石川社長の言葉が印象に残っています。

麹室の前でこんな話題になりました。「木炭の熱と光が柔らかくていいんですよねぇ~!ここで火を付けて藁をかぶせて室に運ぶんです。するとね・・・」と身振り手振りで説明してくださり・・・

ただ、その木炭を焼いてくれる職人さんがご高齢な方のようで、最近は全量納品が間に合わず、分割で納めてくれているらしいのです。「せっかく焼いてくださるから、その方にお願いできるうちはお願いしようと思っているんですよ!」と石川社長。

「もっと安くて安定調達できる木炭はいくらでもあるはずでは?」と、普段であれば聞いていたと思います。でも、石川社長には聞くまでもないなと・・・石川社長らしいなと妙に納得してしまうのです。

石孫本店のお味噌は米をたっぷり使った甘めのものが多いです。大豆より3倍の米をつかった贅沢なものもあります!

石孫本店に機械はありません

04
百 寿
麹蓋(こうじぶた)による麹づくりは醤油に詳しい方なら驚くはず。この製法を続けている蔵は全国でみても数える程しか残っていません。昔ながらという表現がふさわしい銘柄。

価格 : 450円+税
原材料 :大豆(国産)、小麦(国産)、食塩

醤油感覚で使える味噌の上澄み

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みそたまり
長期熟成の味噌から摂ることのできる「うま味」のエキス。さらし袋に吊り下げて、自然に滴り落ちたものだけをビン詰め。澄んだ綺麗な琥珀色は醤油とは違ったコクが特徴。

価格 : 500円+税
原材料 : 米(国産)、大豆(国産)、食塩
この蔵元への直接のお問い合わせ
石孫本店
〒012-0801 秋田県湯沢市岩崎字岩崎162
TEL:0183-73-2901  FAX:0183-73-8131
http://ishimago.main.jp/