職人醤油の蔵元
伊勢蔵
4種類の醤油をつくる蔵元
伊勢蔵では4種類の醤油をつくっています。白醤油、淡口醤油、濃口醤油、溜醤油。伊勢蔵のある三重県は溜醤油メーカーが多く、うま味のつよい味が好まれます。大豆が主原料の溜醤油に対して、白醤油は小麦が主原料。製法も用途も正反対な醤油をつくっている蔵元です。
たくさんの種類を手掛ける理由
「うちの出荷先の多くは業務用です。その要求に応えてきた結果だと思うんですよね」と、教えてくれたのは式井一博さん。はにかんだような笑顔と引き締まった体格とが印象的な5代目です。
大学で経済学を学び大手パンメーカーや機械メーカーを経て家業に戻ってきたそうです。「大学進学のタイミングで家業に戻ることは決めていました。ただ、『醤油は家で教えてやる』と親父が言うもんで、それ以外の世界を見て2004年に戻ってきました」。
仕込み方には創意工夫が
4種類の醤油には、それぞれに応じた仕込み方があります。加えて、原材料が丸大豆か脱脂加工大豆かによっても段取りは異なるそうで、伊勢蔵の仕込みパターンは多岐に渡ります。
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溜醤油の場合、原材料の比率はどのくらいですか?
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大豆と小麦は8:2ですね。ただ、丸大豆か脱脂加工大豆かで若干の調整をしています。
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それはどうしてですか?
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溜醤油は味噌玉をつくって麹菌を繁殖させるのですが、大豆の周りに種麹がついて、その外側にしっかりと小麦がつくのがよいと考えています。
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味噌玉の外側に砕かれた小麦を付けるのですね。
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そうです。そして、麹菌の菌糸が味噌玉の内側に向かって出来るだけ入ってほしいのです。だから、その条件に適するように小麦の砕き具合も変えています。
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へ~。工夫されているのですね。
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丸大豆の時は崩れない程度に弱くして、脱脂加工大豆の時はパラパラと崩れやすいので固くしています。それにあわせて、小麦の砕き方を変えているんです。
実は、繊細に考えるタイプ
とにかく元気がよくて、たくさん笑う式井さん。第一印象は体育会系のような勢いのよさを受けていたのですが、仕込みの方法についての丁寧な受け答えを聞いていると、印象が変わってきます。実は、繊細に考えるタイプのようです。
そして、製造現場を見渡すと、麹室や火入れをする設備も普通とは異なる形をしていることに気づきます。なんでも先代が改良を加えた独自設計仕様とのこと。他にも、木桶を攪拌する時に諸味が飛び散らないようにビニールを吊ったり、パネルで囲ってみたり。試行錯誤することが伊勢蔵のDNAのようです。
スタイリッシュな店舗
「2階が住居で家の一部なんですよ」と、式井さん。もともとは普通の家に店舗が付くような建物になるはずだったそうです。ところが、ある建築士さんの提案から今のデザインに変更したそうです。
「この前の道は国道1号線につながる出発地なんです。『街道には軒が必要なんじゃないですか?』って言われてハッとしました。そこに目をつけてくれたのか…という思いと、柱一本一本にも理由を持たせたいと」。そして、出来上がったこの外観。式井さんの醤油作りとも共通するものがあるように感じてしまいます。
白醤油と溜醤油
「白醤油は 琺瑯(ほうろう)タンクに入れて仕込みます。できる限り色を付けたくないですから」と、式井さん。大豆は外側を8%ほど削ったものを、割合としては10%ほど入れるそうです。
「炒って浸漬させたら、大豆と小麦をまとめて蒸します。溜醤油とは全てが逆ですよね」。うどん屋、きしめん屋などからの依頼が多いそう。濃厚な溜醤油が主流な地域だからこそ、対極にある白醤油のニーズがあるのですが、大きな需要量ではないからつくり手も少ない。だからこそ伊勢蔵の出番。多くの地元の飲食店を支えています。
結果がでるのが一年後ですから
仕込んだ醤油が商品になるには1年~2年を要します。「一年に一回しか試行錯誤ができないのが醤油づくりだと思っています。ぼく自身ができるのも、あと20回くらいですかね」。それぞれの工程に理由を求めて試行錯誤を繰り返す。伊勢蔵の醤油はこれからも進化を続けていくのだろうと思います。
まろやかな白醤油を目指しています
価格 : 450円+税
原材料 : 小麦、食塩、大豆/アルコール
濃口醤油のように使える溜醤油
価格 : 550円+税
原材料 : 大豆(三重県産)、食塩、小麦/アルコール