職人醤油の蔵元
山形屋商店
仲間で高めあって、福島プライドを取り戻す
福島県相馬市。太平洋に面する浜通りの北部に位置し、カレイ、ヒラメ、ホッキ貝などの海産物が有名。「地元の海産物の美味しさを引き立てるのは醤油だと思っていますので、その分、力が入ります」と、渡辺和夫さん。
全国醤油品評会で最高賞である農林水産大臣賞を6度も受賞。全国的にも高い評価を受ける醤油ですが、品評会に初出品をしたのは2013年と最近のことなのです。
きっかけは風評の払拭。
「全国規模の品評会へ出品するなんてお門違いと思っていました。規模の小さな田舎の醤油屋ですから。でも、東日本大震災をきっかけに、福島県の素材は使えないからと注文がなくなりました。その後、分析をして安全性を証明しても、ダメなんです。どれだけ安全を訴えても安心にはならないことを実感しました」。
「ただ、このような状況でも、同情で買っていただきたくはない。それならば、人の心に訴える確かな品質を追求しようと思いました。福島県には醤油の組合組織があり、そのメンバーによる勉強会も立ち上がりました。お互いに門外不出のレシピを共有するなど、風評被害の危機感から連携がはじまりました。ですから、品評会出品は風評被害の払拭が目的だったのです」。
「店主自らつくるべし」が家訓。
「家訓に『店主自ら造るべし』とあり、私のスタイルでもあります」と話す渡辺さんは、現場にいる時はいつもバインダーを抱えています。製造記録はもちろん、気づいたことがあるとその都度、書き記しています。
そんな渡辺さんが特に力を入れるのが火入れ工程。最高到達温度を何度にするか、何分保持するか、どのタイミングでどのように副原料を入れるか、あらゆる作業を細かく試行錯誤を繰り返しています。「分析をするときも、タンクの上部と下部で比較をしたり、細かく調べて、悩んで相談しての繰り返しです」。
そんな様子をヤマブン姉妹としても有名なゆきのさん、絢華さんはこう表現します。「すべてを一人でしていますから、ぐっと集中しています。自分で調べないと気が済まないタイプで、一人で研究している感じですね。ただ、自分たちに意見を求めても、結局は自分の意見なんですけど!(笑)。でも、だからこそ、情報をオープンにできているのかなって感じています。祖父は守ろう守ろうの人でしたが、父が婿で来てからオープンになった感じがしています」。
最高の品質は最高のサービス。そのために研鑽を積んでいく。
「渡辺さんは、火入れで工夫しているポイントなどもオープンにするんですよ。普通だったら企業秘密ですよ」と、同業者の方が教えてくれました。
福島県醤油醸造協同組合は醤油メーカーの組合組織で、共同工場も有しています。「生揚醤油までを組合工場でつくって、それ以降の工程を各社で担っています。この分業体制だからこその高品質に自信をもっています。だからこそ、組合の仲間はライバルでなく同志だと思っています」と渡辺さん。
福島のみなで高みを共に目指したい
東日本大震災の風評被害に加えて、2021年、2022年と福島県沖地震が発生し、地域全体が大きな被害を受けた。「毎年、大変なことが起こっています」と渡辺和夫さん。「同情ではなくて、信頼で買ってほしい。だから、人の心に訴える確かな品質を追求して、風評の払拭をしたいのです。