職人醤油の蔵元
ヤマサちくわ
ちくわの老舗が挑んだくさくない魚醤
練り製品の原料として最高級品とされる「えそ」という魚。ちくわに使わないアラから魚醤をつくるため、ちくわの老舗とイチビキが共同開発。醤油づくりの技術を使った魚醤ができました。
愛知県では誰もが知っている ちくわメーカー
ヤマサちくわは創業190年。原料の魚をさばくところから販売までを一貫して手掛けています。愛知県豊橋市の工場から約40の直営店にちくわが運ばれますが、「箱根を越えず比叡を越えず」の考えで東は沼津、西は大垣・四日市までの東海四県下で展開しています。
ちくわの弾力を決める「すり工程」
朝7時すぎに訪問すると、最初に案内されたのは魚の身を「する」工程。夏でも低温に保たれた空間に、昔から使い続けられている石臼がずらっと並んでいます。すり加減でちくわの弾力が決まるという大切な工程。ここを担えるのは熟練職人の中でも一握りだとか。
白いちくわが徐々に色づく焼き工程
続いて焼き工程。鉄の棒にすり身が付けられて、ゆっくりと移動していきます。真っ白な表面が徐々にきつね色に変わり香ばしい香りに包まれます。ちくわがクルクルまわりながら一列に並ぶ様は圧巻です。ただ、火のそばは高温。微調整のために職人たちが付きっきりで目を光らせています。
午後は出刃包丁に持ちかえて
午後になると職人たちは包丁を片手に魚をさばく工程に移動します。ちくわの需要は時期によっても異なりますし、そもそも魚の入荷は自然任せで規則的ではありません。多くの職人を抱えながら、そのときの状況に応じて柔軟に対応できるように皆が複数の工程を担えるようになっているわけです。
ちくわの原料になる「えそ」
ヤマサちくわでは近海で獲れる鮮度のよい「えそ・ぐち・はも」を原料にしています。魚は身の部分と頭や骨などに分けられて、ちくわに加工されない部分は肥料にしたり破棄されたりしていたそうです。そして、これを有効活用することが社内の願いでもありました。
高校の同窓会をきっかけに開発スタート
高校の同窓会をきっかけに開発スタート
そのことを佐藤常務が何気なく話したのは醤油メーカーのイチビキの中村社長。高校の同窓会の席だったといいます。実はイチビキでも30年前にイワシの魚醤づくりに挑むものの特有の臭いに悩まされた経験があったそうです。それならば共同で取り組もうと、「えそ」をつかった魚醤プロジェクトがスタートしました。
発酵の研究に取り組むイチビキしょうゆ
ヤマサちくわから車で10分ほどでイチビキの工場に到着しました。大きな発酵熟成タンクが立ち並ぶ立派な工場です。一般的な濃口醤油から中部地方でつくられることの多い溜醤油まで幅広く手掛けています。
愛知県ではお馴染みの存在である溜醤油や豆味噌は「発酵していない」と表現されることがあります。濃口醤油などは乳酸菌、酵母菌による発酵が活発ですが、うま味成分の多い溜醤油は麹がつくりだした酵素による分解作用が主となります。
ただ、「イチビキの溜醤油は発酵させているんですよ」と研究開発部の西村さんはいいます。もちろん、そのまま仕込んだだけでは発酵しないので、独自の工夫を加えることで香りや風味を追求しているそうです。
魚くさくない魚醤をつくろう
えその魚醤づくりがスタートした時、国内と海外の魚醤を集めて味比べをした感想は、くさい。魚醤特有の臭いでもありますが、これを改善しようというのが一つのテーマになりました。
一般的な魚醤は塩漬けです。魚の内臓にある酵素の働きで魚のタンパク質がうま味成分のアミノ酸に分解されます。つまり、発酵というより分解作用になり、原理としては溜醤油に似ているのです。
鮮度が大切という気づき
最初はやはり失敗が続いたそうです。泣く泣く捨てる日々を繰り返していると、魚の鮮度が関連していることに気づいたそうです。
当初は、ヤマサちくわでさばいた魚をイチビキに運んで塩漬けにしていましたが、ヤマサちくわでさばいた時点で塩漬けにすると臭いがぐっと抑えられたそうです。
そこに醤油の麹と乳酸菌、酵母菌も加えて発酵をさせることで、くさくない魚醤ができあがりました。発酵過程の魚醤の諸味を見せていただきましたが、驚くほどにいやなにおいが皆無。これ本当に魚醤ですか?と聞いてしまうほどでした。
つけて味わう魚醤
「えそ」のうま味を余すところなく引き出そうとはじまった魚醤づくり。素材の鮮度を大切にするヤマサちくわと、イチビキの研究開発技術が手を組むことで実現できた味わいのように感じています。一般的に魚醤というと鍋や炒め物に使われるイメージですが、そのままつけて素材を活かす調味料として活躍してくれそうです。
ちくわの老舗が挑んだくさくない魚醤
価格 : 500円+税
原材料 : えそ(国産)、食塩、脱脂加工大豆(遺伝子組み換えでない)、小麦/酒精