職人醤油の蔵元
鈴木醤油店
若い夫婦が挑む桶仕込みの手づくり醤油
高速を降りて国道284号線を北上すること30分。天栄村という案内看板を過ぎると見渡す限りの田園風景です。そして、鈴木醤油店とかかれた看板を目印に小道を少しのぼると、昔は養蚕もしていたという2階建ての母屋が見えてきました。
迎えてくれたのは6代目の鈴木良浩さんと洋子さんご夫妻。寡黙な職人肌のご主人と、明るく元気な奥様。とてもお若いお二人です。
細かいことろまで気配りされている現場
初めての訪問は約束なしの飛び込みでした。でも、建物に入った最初の一歩目、とてもいい予感がしたのを覚えています。商品が入っているプラスチックコンテナの積み重ね方がとてもきれいで、広げた段ボールで被せられていました。
ゴミが入らないようにという配慮だと思いますが、醤油は瓶詰めされて栓がしてあります。覆わなくてもクレームになることはありません。些細なことですが、醤油への接し方がそこにあらわれているように感じました。
正真正銘の「手づくり」醤油
仕込み場を案内いただくと、その予感に間違いがなかったことを確信しました。太陽のやさしい光が注ぐ仕込み場、石造りの室の中には麹蓋が積まれています。現役でこの麹蓋による製麹を続けている蔵は数えるほどしか残っていないはずです。
床もコンクリ―トできれいに整備されていて、蔵の中には木桶がきれいに並んでいます。麹づくりは麹蓋、諸味の攪拌は櫂棒による手作業。醤油の定義による正真正銘の「手づくり」が名乗れる天然醸造醤油です。
結婚をして家業に戻ってくる
都内で教師をしていた鈴木さんは、2014年に結婚して家業に戻ることを決意します。福島県はアミノ酸液を加えた混合醤油が主流ですが、「私自身、混合タイプの甘い醤油で育ちました。でも、都内での生活で口にした本醸造の醤油もおいしく感じたんです。それで、どうせなら麹蓋と木桶を使って添加物も加えない、手づくり醤油と呼べるものにしたかったのです」と、当時を振り返ります。
大手メーカーとは真逆の理論
桶を改造した大豆の蒸し器は鈴木さんの手づくり。桶の下から蒸気を入れる仕組みです。「ゆっくり蒸すと大豆が甘くなる気がするんです。夕方から蒸して、一晩おいて翌朝に室に入れます」と、鈴木さん。大手の醤油メーカーの方に聞けば、大豆は短時間で蒸すに限ると言うはず。それとは真逆の理論です。
「大豆がかわいいんですよ。そのまま食べてもとってもおいしくて」と、話す洋子さんは神奈川県出身の都会育ち。福島県にきて醤油づくりをするとは夢にも思っていなかったそうで、「もろみに大豆由来の油が浮いてくるのですが、大豆から油がとれることも嫁に来てはじめて知ったんです」と、嬉しそうに話します。
醤油とりんごの関係
「麹室の天井にある窓を開けて温度の調整をします。そして、七輪で炭を燃やし続けるのですが、引き込み直後にりんごの枝を細かくしたものをのせて一緒に燃やします。そのおかげで室の中を薬剤で消毒する必要はないんですよ。炭と煤(すす)の力ってすごいですよね」と笑います。
なぜりんごの枝なのかと疑問に思っていると、「うちはりんご農家でもあるんです。家業にもどってきた時、醤油一本にすべきか悩んで夫婦で何度も相談しました。でも、先祖から引き継いだ畑だったので・・・」。
とにかく気持ちの良いりんご畑
その畑までは醤油蔵から車で5分ほど。青空を背景に葉の緑とりんごの赤がきれいなコントラストの光景が広がります。「周りが山で囲まれているので、見通しが悪くて鹿が安心して近寄ってくるんです」という被害はあるものの、この閉ざされたりんご畑は秘密の楽園のようです。
りんごもつくる醤油蔵。
微生物と対話する醤油蔵と、青空が広がるりんご畑。両極端な環境を行き来する鈴木さんご夫婦の挑戦は、はじまったばかり。この夫婦にしかつくれない醤油にきっとなる。そんな期待をせずにはいられない醤油蔵に出会うことができました。
正真正銘の手造りと呼べる醤油
価格:500円+税
原材料 :大豆(国産)、小麦、食塩